Note 01旗揚げ公演『春になれば、きっと』

教室公演での立体音響

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劇場利用を想定していない教室空間での公演において、客席を包囲する6台のスピーカーと既設の天井スピーカー2台からなる計8chの立体音響系を構築しました。

3台のオーディオインターフェースを集約して8ch出力を得、Ableton Live と Surround Panner により音像の位置を制御しました。
現実の場面では音量を抑えて視線を役者へ集め、回想・悪夢の場面では音を客席全体へ展開しました。


音によって実際の教室よりも広い空間を感じられるようにし、舞台の狭さを補うことを試みました。

はじめに

2026年5月、東京大学五月祭にて旗揚げ公演『春になれば、きっと』(日本語上演、来場者150名)を実施しました。会場は劇場利用を想定していない一般的な教室空間であり、舞台として使える面積が狭く、段差もない平坦な構造でした。

旗揚げ公演『春になれば、きっと』の会場(教室)
旗揚げ公演『春になれば、きっと』の会場(教室)
スピーカーの配置(上から見た図)
図1スピーカーの配置(上から見た図)

会場は劇場利用を想定していない一般的な教室空間であり、舞台として使える面積が狭く、段差もない平坦な構造でした。

スピーカーの配置(上から見た図)
図1スピーカーの配置(上から見た図)
旗揚げ公演『春になれば、きっと』の会場(教室)
旗揚げ公演『春になれば、きっと』の会場(教室)
音の信号の流れ
図2音の信号の流れ

この条件に対し、図1に示す通り観客席を囲むようにスピーカーを配置した立体音響を構成することで、観客に対し実際の教室以上に広い空間を演出する舞台装置を作りました。

これは、物理的な舞台の広さに知覚上の空間を一致させるのではなく、音によって上演空間そのものを再構成する試みです。

システムの構成

スピーカーは客席を囲む円周上にほぼ均等に6台(パッシブ2台、アクティブ4台)を配置し、これに教室の既設天井スピーカー2台を加えた計8chの出力系としました。

パッシブスピーカーはアンプを内蔵していないため、別にアンプを通して鳴らし、アクティブスピーカーはアンプを内蔵しているため、ミキサーから直接つなぎました。


オペレーション卓は客席後方(舞台の反対側)に置きました。
使用した主な機材を表1に示します。

表1使用した主な機材(図2の機器の機種)

区分機材
再生Mac / Ableton Live Suite(Max for Live デバイス「Surround Panner」)
操作MIDIコントローラー(各キューをボタン1つで再生)
オーディオインターフェース 1Focusrite Scarlett 8i6(4ch)
オーディオインターフェース 2Steinberg UR12(2ch)
オーディオインターフェース 3USB Audio CODEC(2ch)

8ch出力を1台の機器で賄えなかったため、3台のオーディオインターフェースを macOS の「Audio MIDI 設定」の機器セットで1台の出力機器として集約し、擬似的に8ch出力を構成しました。

音源の作り方と再生

音が聞こえてくる位置(音像)は、Surround Panner で指定しました。
Surround Panner は、指定した位置から音が聞こえるように、それぞれのスピーカーに送る音をどれくらいの割合で大きく・小さくするか(ゲイン)を自動で計算します。

環境音の一部は Ambisonics 対応レコーダー Zoom H3-VR で収録しました。

客席のまわりを移動するように聞かせる音は、オペ用とは別の制作用プロジェクトで、音像の位置が時間とともに変わるように設定(オートメーション)し、インターフェースのループバック録音によってスピーカーごとの音源として書き出しました。
本番では、書き出した音源を再生するだけで、音が移動して聞こえるようにしました。

結果と考察

特に効果的だったのは、立体音響を活用して現実と精神の空間を聴覚的に描き分けた点です。
舞台の狭さという会場の制約を逆手に取り、現実の場面では音量を抑え、役者へと自然に視線を集めました。


その上で、回想シーンでは客席全体をその場所に見立てるように音を配し、悪夢の場面では複数の音が観客の周囲を飛び交って包み込む構成をとりました。

視線を絞り込んでから立体的な音で内面へと引き込む二段構えにより、観客自身が主人公に入り込むような強い没入感と説得力をもたらすことができました。

来場者アンケートでは、立体音響による空間表現について好意的な評価が多数寄せられました。
回答者の約8割が「印象に残ったところ」に音響を挙げ、約半数が自由記述欄で立体音響について具体的に触れていました。


一方、機器セットによる集約は、インターフェースの再接続で設定が外れる、ソフトウェアの再起動が必要になるなど挙動が不安定であり、本番当日も全チャンネルの確認が欠かせませんでした。

今後の展望

  1. 複数インターフェースの集約に依らない、安定した多チャンネル出力系の構築複数インターフェースの集約に依らない、安定した多チャンネル出力系の構築
  2. スピーカー配置の自由度を保ったまま音像を制御できるパンニング手法の検討スピーカー配置の自由度を保ったまま音像を制御できるパンニング手法の検討
  3. 上下方向も加わった立体音響の構成上下方向も加わった立体音響の構成
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